「最近独立したんですけど、
今後のことを相談にのってもらえますか?」
懐かしい友人から久しぶりにご連絡をいただいて、
私はちょっとおしゃれなお店のランチを予約しました。
独立を決意した経緯やこれからやりたいお仕事、
大事にしたい思い、将来に向けた壮大な夢……
人生の舵を大きく切った人特有の、
晴れやかで勢いのあるお話を聴いていると、
彼が成功するイメージがどんどん膨らみ、
一緒にわくわくします。
お祝いにごちそうしようとすると、
「相談にのってもらったのに」
と恐縮されるので、
「私も、同じことをしてもらってきたから」と
とっておきのエピソードを披露しました。
私がフリーランスになってまもないころ、
憧れていた先輩のお仕事を手伝わせていただき、
お客さまに接する姿勢をお隣でたっぷり学び、
夕食までごちそうになったのです。
割り勘にしてもらおうとお願いすると、
「私も、同じことをしてもらってきたから」
クールに微笑んで、
お支払いをすませて立ち去られました。
なんてかっこいいのでしょう。
後日お会いしたときにお返しをしようすると、
「私には返そうと思わなくていいから。
将来、後輩ができたら、同じことをしてあげて」
あまりにもシビレるセリフに声も出なくなり、
ただただポカンと見つめている私に、
「私なんて、どれだけ大勢に助けてもらったことか」と
先輩の新人時代のことを話してくださいました。
どんなにお世話になっても、どの方も口々に、
「お礼なんていいから、
次の人に同じことをしてあげて」
とおっしゃったそうです。
「自分も同じことをしてもらってきたから」と。
「私は、先輩の先輩の、そのまた先輩の……
面識もない大勢のご恩を受け取っているんですね」
「この業界は、そうやって順番に回っているのよね。
私だって、やっと返せるようになったんだから、
今は気持ちよく受け取ればいいのよ」
ある日、友人に勧められて、
映画「ペイ・フォワード」を観ました。
少年が3人に親切をして、
その人たちがまた別の3人に親切をして、
街中に連鎖していくというストーリーでした。
これ、先輩から教えていただいた世界そのものだ!
私がしてもらったことは、ペイ・フォワードだったのか。
スクリーンの向こう側のお話ではなく、
自分の身近な世界で現実に起こっているという事実に、
驚きと感動で心が震えました。
私の夢が1つ生まれました。
いつか私も、こんなことができるようになりたい。
心の中でそう誓った後も、
「こんなこと」ができそうな機会はなかなか訪れません。
何年たっても、何歳になっても、
人やお仕事を紹介していただいき、
知らないことを教えていただき、
相談にのってもらった方にごちそうしてもらい、
ご恩を受け取りっぱなしの年月が続いています。
いつまで未熟なままなのだろう。
受け取ったご恩を次の誰かに送ることは、
私にとっては見果てぬ夢なのでしょうか。
あ!
レストランで、熱く語った先輩とのエピソードに
しきりに感嘆している友人の表情を見て、
気がつきました。
私、今、「こんなこと」ができるようになっている?
いやいや、ふつう、お店を予約する時点で気づくでしょう。
せめて、話し始めた時点で気づくでしょう。
と、心の中で自分に突っ込みましたが、
本当にその瞬間まで気づかなかったのです。
相談したいと言ってくれる相手がいるからこそ、
受け取ってくれる相手がいるからこそ、
はじめて、ご恩のバトンが渡せるのですね。
ありがとう。
私に、機会を与えてくれて、ありがとう。
恩を送ったはずなのに、
私の方がもっと大きなものを受け取ったような感覚が
身体の中に残っています。
自分の手を離れていくどころか、
先輩方から受け取ったご恩が1つ1つ息を吹き返したように
私の全身を駆け巡っているような気がします。
数年ぶりに、先輩にお会いしたくなりました。
今お会いしたら、
今度は対等に、割り勘にしてもらえるでしょうか。
それともまた、ご恩をいただくのでしょうか。
きっとまた、想像もつかないステキな近況を
聴かせてくださることでしょう。
「やっと追いついたと思ったのに、
また、はるか遠いところにいらっしゃるのですね」と
憧れの上書きをさせてください。
その背中を見上げて、私もまた前に進みます。